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東京地方裁判所 昭和44年(ワ)504号 判決 1972年9月08日

原告 株式会社中省商店

右代表者代表取締役 中野省一郎

右訴訟代理人弁護士 播麿幸夫

同 川岸伸隆

被告 重車輛工業株式会社

右代表者代表取締役 久保田栄

右訴訟代理人弁護士 上野久徳

同 矢野欣三郎

同 余吾要

同 林紘太郎

被告 赤川企業株式会社

右代表者代表取締役 菅原主純

右訴訟代理人弁護士 津田晋介

右訴訟復代理人弁護士 片桐真二

主文

被告赤川企業株式会社は原告に対し金三、五五四、一四五円および内金二、九五四、一四五円に対する昭和四三年九月二六日から完済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。

原告の被告重車輛工業株式会社に対する請求および被告赤川企業株式会社に対するその余の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告と被告重車輛工業株式会社との間において全部原告の負担とし、原告と被告赤川企業株式会社との間においては全部同被告の負担とする。

この判決は、原告において被告赤川企業株式会社に対し金一〇〇万円の担保を供するときは、原告勝訴の部分に限り仮に執行することができる。

事実

原告訴訟代理人は、主位的に「一、被告らは原告に対し連帯して金三、九五四、一四五円および内金二、九五四、一四五円に対する昭和四三年九月二六日から完済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。二、訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決並びに右第一項につき仮執行の宣言を求め、予備的に、「一、被告赤川企業株式会社は原告に対し金三、九五四、一四五円および内金二、九五四、一四五円に対する昭和四三年九月二六日から完済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。二、訴訟費用は同被告の負担とする。」との判決並びに右第一項につき仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、

「一、原告は石油製品セメント等の販売を営業とするものであり、被告らはいずれも土木建設の請負等を営業とするものである。

二 被告赤川企業株式会社(以下被告赤川企業という)は、昭和四二年八月五日と同年一二月二五日の二回に亘り被告重車輛工業株式会社(以下被告重車輛工業という)との間で、同被告に三陸国道(国道四五号線)の建設改良工事のうち岩手県下閉伊郡普代村堀内地区の土木工事(以下本件工事という)を下請させる旨の契約を締結したが、その際被告重車輛工業に対し被告赤川企業の商号を用いて工事を実施し、これに必要な資材を購分することを許諾した。

三 被告重車輛工業は、被告赤川企業の名をもって、原告から昭和四三年九月二日より昭和四三年五月一日までの間に、代金は、毎月二五日締切、翌月二五日に満期を九〇日先とする約束手形により支払う旨の約定で、総額金六、一〇八、二四九円相当の石油製品(ガソリン、軽油、灯油等)およびセメント等を買受けたが、その内金二、九五四、一四五円の支払をしていない。

そして、右残代金はその後本件工事の完成と同時に現金で支払うとのことであったところ、本件工事は昭和四三年五月上旬に完成した。

四 したがって、被告重車輛工業を被告赤川企業と誤認して前記取引をした原告に対し、被告赤川企業は、名板貸をした者の責任として、前記残代金債務につき被告重車輛工業と連帯して弁済の義務がある。

五 ところで、原告は被告らに対し前記残代金の支払の請求を数度なしたが、被告らは共に自社で負担すべき債務でないと責任をなすりあって、債務の履行を拒絶し、一片の誠意さえ示さなかった。そこで、やむをえず、原告は、話合いによる解決を断念して訴訟を起こすことにし、弁護士播麿幸夫、同川岸伸隆に本件訴訟を依頼して、右両弁護士との間に、その報酬金を金一〇〇万円とし、内金五〇万円は本件訴訟事件着手時に、残金五〇万円は本訴訟事件第一審の判決時に、それぞれ支払う旨の約定をし、昭和四四年一月一一日金五〇万円を右両弁護士に支払った。

被告らに全く誠意がないため、原告は権利を擁護する最後の手段として本訴を提起したのであり、被告らは、不法に原告に訴提起を余儀なくさせたものであるから、原告に対し、連帯して、右弁護士報酬金一〇〇万円を賠償する義務がある。

六 仮に被告重車輛工業が被告赤川企業の名で前記取引をしたものでないとしても、被告赤川企業が原告との間に前記取引をしたのであるから、同被告は原告に対し前記残代金および弁護士報酬金相当の賠償金を支払う義務がある。

七 よって、原告は、主位的に、被告らに対し、金三、九五四、一四五円および内金二、九五四、一四五円に対する昭和四三年九月二六日から完済に至るまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の連帯支払を求め、予備的に、被告赤川企業に対し、金三、九五四、一四五円および内金二、九五四、一四五円に対する昭和四三年九月二六日から完済に至るまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。」

と述べた。

被告重車輛工業訴訟代理人は、(主位的請求につき)「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として、

「一 請求原因第一項のうち原告に関する点は不知、被告らに関する点は認める。

二 請求原因第二項のうち、原告主張のとおり被告赤川企業と被告重車輛工業との間に請負契約がなされたことは認め、その余は否認する。

三 請求原因第三ないし五項は否認する。」

と述べた。

被告赤川企業訴訟代理人は、(主位的請求につき)「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として、

「一 請求原因第一項は認める。

二 請求原因第二項のうち、原告主張のとおり、被告赤川企業と被告重車輛工業との間に本件工事の請負契約がなされ同工事がその主張の頃完成したことは認め、その余は否認する。

三 請求原因第四項のうち、原告が被告重車輛工業を被告赤川企業と誤認したとの点は知らない。

四 請求原因第五項のうち、被告赤川企業が原告から未払金の請求を受け、支払を拒絶したことは認め、原告が、その主張のように、報酬金一〇〇万円の支払を約し、内金五〇万円を支払ったことは不知、その余は否認する。

なお、本件残代金支払の遅滞と右の弁護士費用の負担との間には相当因果関係が認められず、しからずとする報酬金一〇〇万円は高額にすぎる。」

と述べた。

立証≪省略≫

理由

≪証拠省略≫を綜合すれば、被告赤川企業は、国より請負った本件工事につき被告重車輛工業にその下請をさせたが、昭和四二年八月右工事施行に当り必要な石油製品、セメント等の購入につき、原告との間に、代金は毎月末日締切、翌月一〇日に満期を九〇日先とした手形により支払うものとして原告から右の物品を購入する旨の取引契約を締結し、これに基づき、原告は被告赤川企業に対し昭和四二年九月二日から昭和四三年五月一日までの間に総額金六、一〇八、二四九円相当の石油製品(ガソリン、軽油、灯油)、セメント等を売渡したが、右売買代金についてはなお金二、九五四、一四五円の未払が残っていることしたがって、右の売買の直接の当事者は被告赤川企業であり、被告重車輛工業はこれに関与しなかったこと(なお、このことは右の物品購入の費用の最終的な負担者が両被告のいずれであるかの問題とは別個のものであり、後者はもっぱら被告らの間の内部関係の問題である)、その後原告は前記残代金を被告赤川企業に対し請求したが同被告は、「被告重車輛工業が下請であるからそちらに請求するように」というのみで、その支払に応じなかったこと、そこで、原告は、話合による解決を諦め、やむなく、播麿幸夫、川岸伸隆の両弁護士に依頼して本件訴訟を提起したこと、原告は、昭和四四年一月九日弁護士らとの間に、報酬金を一〇〇万円とし、訴訟事件着手時に内金五〇万円を、同事件第一審判決時に残金五〇万円を、それぞれ支払う旨の契約をし、同月一一日右の内金五〇万円を支払ったことが認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。

してみると、原告の本訴請求のうち、被告重車輛工業に対し前記取引の買主としての責任の履行を求め、かつ不当抗争による損害の賠償を求める部分および被告赤川企業に対し名板貸の責任の履行を求める部分はいずれも理由のないことが明らかであるけれども、被告赤川企業に対し前記取引の買主としての義務の履行(前記残代金二、九五四、一四五円およびこれに対する昭和四三年九月二六日から完済に至るまで年六分の割合による遅延損害金の支払)を求める部分は理由があり、同被告に対し不当抗争による損害の賠償を求める部分は金六〇万円(前記認定の事情によれば、結局、原告は被告赤川企業の故意または過失ある不当な抗争により本訴提起を余儀なくされたものというべきであるから、同被告は原告に対しその負担した弁護士費用につき相当の範囲で賠償の義務があるというべきところ、その賠償額は、事案の難易、請求額、その他諸般の事情を考慮して金六〇万円が相当と認められる)の限度で理由があり、その余は失当といわなければならない。

よって、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九二条を仮執行の宣言につき同法第一九六条を、それぞれ適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 真船孝允)

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